Connective(コネクティブ)

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EVENT REPORT

ConnectUp with Oisix.daichi vol.2

2018.05.11

トップディレクターの視点 − Oisix.daichi × Creativity Class −

クリエイティブ表現は日々広がりをみせており、案件内容や、変化のスピードから前例を参考にできないことが往々にしてあります。そういった中、クリエイティブの良し悪しを日々アップデートし、評価されるクリエイティブを生み出すために、第一線で活躍しているクリエイターはどのように情報を収集し、自らの基準をアップデートしているのでしょうか。

2018年4月6日、Oisix.daichiさんと共同で「ConnectUp with Oisix.daichi」を開催いたしました。

「トップディレクターの視点」というテーマで、国内外のアワードを多数受賞している3人、Garden Eightの野間寛貴さん、EXIT FILMの田村祥宏さん、BEES & HONEYの今村玄紀さんに登壇いただき、それぞれの視点からWeb、Film、Brandingの“いま”を海外事例など交えながらお話いただきました。

本イベントの書き起こし記事を「Web編」「Film編」の2回にわけて公開いたします。
第2回目は、田村祥宏さん(株式会社イグジットフィルム 代表取締役)のセッション「Film編」について紹介いたします。

田村 祥宏
株式会社イグジットフィルム 代表取締役 / フィルムディレクター/クリエイティブディレクター

映像のディレクション、そして映像を中心としたメディアミックス型コンテンツのクリエイティブディレクションを行う。映画的な演出や、個人としての作家性を大切にしながら、ドキュメンタリーの現場で培った技術により、映像制作の全ての行程をワンストップで行う。また映像やWEB、音楽や写真など、様々なクリエイティブコンテンツの持つ価値を、企業や社会の課題解決に上手く組み込めないか、という挑戦をしている。国内外のアワード受賞多数。
http://exitfilm.jp/

映像制作会社「EXIT FILM」の田村と申します。
ビジョンムービーやブランディングムービー、ドキュメンタリー、PV等を制作しています。

よろしくお願いします!

キャリアのスタートは映画なんですが、僕は映画が大好きで、今日は仮説として

「映画と映像広告に差がなくなってきてるのではないか(そうなったらいいな)」

というお話をしたいと思います。

映画的な映像広告が視聴者に感動的な体験を与え、行動変容を生む

まず、映像にはどのような種類があるかというと、CM、映画、Web広告、ミュージックビデオ、セミナー映像、オンラインコンテンツ等いろいろありますが、映像の王様は総合芸術である「映画」だと、僕は思っています。

映画には「人々の行動変容を促す強い力がある」と思うんですが、
例えばトム・ハンクスの「フォレスト・ガンプ」を見て、彼の真摯な行動に心打たれて生き方が変わった人、
エヴァンゲリオンの内向的な主人公を見て、自己肯定感を持った人、色々とあると思います。
僕も14歳の多感な時期にずいぶんと影響を受けました(笑)

クシシュトフ・キェシロフスキという映画監督をご存じの方?

(会場挙手)

知らないですよね(笑)

僕の一番大好きな映画監督でポーランドの方です。
彼の作品で「殺人に関する短いフィルム」というのがあるんですが、この作品は、後の裁判員制度に影響を与え社会に大きな変容をもたらしたんですね。

このように、映画には「人々の行動を変えて、より良い世界を作る力」があるんですね。

では、良い動画ってどういうものでしょう?
僕は「視聴者を楽しませることを第一に考えている動画」だと思っています。
「ただ説明しているだけの動画」「単調なインタビュー動画」「低画質な動画」などありますが、こういった動画は視聴者が楽しめないだけでなく、広告的な価値も付きづらいかなと思います。

なので、視聴者、クライアント、制作者、全ての人にとって素晴らしいのは、感動的な体験を与え、行動変容を生むことができる「映画的な映像広告」なのではないかと思っています。

映像を取り巻く環境の変化

ちょっとこの映像を見てください。

これ、iPhone Xで撮影してるんです。
凄くないですか?

画質がすごく良いというのもあるんですが、特にカラーが素晴らしいんですね。映画の色なんです。これがiPhone Xで再現できているんですね。

2007年のiPhoneの発売、2008年頃の一眼動画の流行あたりから映像への接点が急拡大していったのですが、その後、テクノロジーの進歩で以前は高価格だった高性能機材が比較的購入しやすくなって、最近はプレイヤーもどんどん増えてきています。

もう機材の性能だけではクオリティの差をつけることが難しく、結果、ハイレベルな作品でなければ戦えなくなってきてるんですね。最近のトレンドも、大きな予算を掛けたエンターテイメント寄りな作品が評価される動きがあるように思います。

今日のために「Vimeo Staff Picks」で500以上の作品を観てきたのですが、やはり昔よりもインデペンデントの映像の元気が無くなってきているような気がしました。

勿論、映画も予算が全てではないように、大事なのは中身、ストーリーなのですが。

おすすめの映画的な映像広告動画

ということで、事例を見ていきたいと思います。
まず、最近国内で最も映画っぽかった映像広告「ティファニー・ブルー」です。

YouTube広告で多く流れていたので皆さん知っている方も多いと思うのですが「ティファニー(Tiffany & Co.)」と結婚情報サービス「ゼクシィ」が公開したショートフィルム作品です。

すごくよかったです。

脚本は「君の名は。」を手掛けた川村元気さんで、映像ディレクターは児玉裕一さんです。非常に映画っぽく作られていて、6分ぐらいあるので少し長いんですけど素晴らしいストーリーで最後まで見ちゃいました。映画的な広告映像は商品をあまり大々的に出さないブランディング動画が多いのですが、この作品は、ちゃんと商品を出してティファニーの良さを表現した素敵な作品だと思います。 それと、YouTubeで404万再生、1.5万いいね、809コメント(イベント開催時)もあるんですね。これは、5秒後にSkipしないで最後まで観る方が多く、また感動した方が多かったということを表しているかと思います。まさに映像広告とは「こうあるべき」という作品ですね。

※YouTubeの映像広告はSkipができない5秒間に言いたいことを詰め込み、広告料が発生しない30秒以内に離脱させるような動画であったり、多額の広告費をかけ数百万の再生数があっても「いいね」や「コメント」があまりつかず効果を得れない動画もあります。

では、次。

ドキュメンタリー系です。

「MARMITE」というイギリスでメジャーなジャムのCMです。
このジャムはイギリス人でも“好きな人”と“嫌いな人”でハッキリ別れるんですが、「なぜこんなに嫌われるんだ?」というのを調べようと、嫌いな260人の消費者の遺伝子を集めて科学的に研究をしたら、遺伝子レベルで「MARMITEが好き(または嫌い)」ということを発見したんですね。
そこで、消費者が遺伝子検査キットで自分が生まれつき「MARMITE」が好きか嫌いかテストできるキャンペーンをおこなったんです。
狙いとしては、嫌いと思っていた人が実は遺伝子レベルでは「好き」だったと(笑)そういう人たちに改めて「MARMITE」を試してもらおうということなんですが、この動画は一度も「美味しいよ!」って言わないんですね。むしろ「まずい」しか言わないんです(笑)
でも、キャンペーンが開始されてから「MARMITE」の広告認知度は、3%から12%に上昇して、この広告を見て「MARMITE」を買おうと思った人が、4%から21%に増えたという数字がでているんですね。これは視聴者を楽しませ、エンターテイメントだったことがこのような成果につながった作品かと思います。




次はApple Musicの広告動画なんですが…

Appleって、美しいというのを大事にしていて、それを感じ取ってよ、というものが多いんですが、サービスを説明するような動画を作ってないのかというと…作ってるんですね。

イギリスのジェームズ・コーデンという俳優(コメディアン)が、ふざけたアイデアをひたすら経営者達にピッチするという寸劇動画なんですが、物語の中でApple Musicのサービスについてバンバン説明してるんですね。ユーモアたっぷりに話しているので、まったくいやらしさがなく情報がスーッと入ってくるんですが、これが視聴者に向けて説明するようなものであれば感じ方は全然違ってくると思います。こういった物語としてちゃんと成立していて、かつサービスの良さをしっかり伝えるという演出はさすがだなと思います。




これはめっちゃくちゃ最近の動画ですかね。

H&Mの広告動画で、主人公の女性が男性とダンスをしてるんですが…

退屈だと(笑)

それで、いろんな女性達と踊り出すんですね。
その踊る女性たちを男たちはただポカーンと見ているだけみたいな(笑)

「自立した女性たちは自分たちでこんなにも素晴らしいものを作っていけるんだ」ということを描いているんですが、女性の快活さを、上下にある黒い帯をはみ出す演出で表現しているんですね。言葉ではなく、映像の技術や演出でアプローチしてうまく描いている作品だと思います。




次が最後ですね。
スポーツベッティングアプリを制作する「Kwiff」の動画です。

ブックメーカーが提供するオッズに賭けるアプリなんですが、ギャンブル広告の規制が厳しいので「これやると楽しいよ」といったポジティブな気持をストレートに表現できないんですね。
なのでそのような気持ちを「ガラスのコップを地面に落ちる前にキャッチできたときの快感をずっと持ちつづける」というストーリーで表現したんですね。
ただそれだけの動画なんですけど(笑)
Kwiffの社長さんが良いことを言っていたので、その言葉を紹介して締めたいと思います。
「我々のような若い会社が大手競合会社と戦うには、プロダクトの素晴らしさを伝えるだけではダメなんだ。もっと私達のストーリーをそこに介入させて、見る人達を納得させないといけない。」と…

なんとなく締まりましたかね?(笑)

ということでぜひ広告で映画を作っていただきたいなと思います。
ありがとうございました。

田村祥宏さんのセッション「Film編」のスライドはこちらからダウンロードがおこなえます。

セッション後の交流会では、Oisix.daichiさんの新鮮な野菜と魚を使った「金目鯛とアサリのアクアパッツァパスタ」「旬野菜たっぷりスペインオムレツ」「こだわりサニーレタスと白ゆきしめじのサラダ」が参加者に振る舞われました。おいしい料理を前に、登壇者、参加者同士の交流も一層盛り上がりあっという間の時間でした。

オイシックスドット大地株式会社では「これからの食卓、これからの畑」を一緒に作るデザイナーを募集しています!
https://recruit.oisixdotdaichi.co.jp/job/designer/
企画:
高橋渉吾/五十嵐啓之/小川佐智江(オイシックスドット大地株式会社)
渡邊浩樹 @watanabeeeeee (Connective Inc.)
写真:
髙橋哲朗(オイシックスドット大地株式会社)